東北大学
タフ・サイバーフィジカルAI研究センター
シンポジウム2025

講演内容

招待講演1
大関 洋平
東京大学 大学院総合文化研究科 准教授

人間らしい言語処理モデルの開発

大関 洋平准教授

自然言語処理は、機械学習やビッグデータの恩恵を受けて急速に発展しており、特に大規模言語モデルは、言語生成、質問応答、文章要約、機械翻訳など様々な下流タスクで高い性能を叩き出している。しかしながら、大規模言語モデルには、その高い性能の代償として、解釈性、頑健性、効率性など様々な問題が存在する。そこで、本講演では、それらの問題を解決する方法の一つとして、人間らしい言語処理モデルの開発を概観する。具体的には、認知科学において、人間は所謂ホワイトボックスであり解釈することができる(解釈性)、人間は未知の環境へ頑健に汎化することができる(頑健性)、人間は少量のデータから効率的に学習することができる(効率性)という知見が示唆されていることから、言語処理モデルを人間らしくすることで、大規模言語モデルの問題を解決できることを示す。

略歴:大関 洋平 OSEKI Yohei

2010-2012 北海道大学 大学院国際広報メディア・観光学院 M.A.
2012-2013 マサチューセッツ大学 言語学科 訪問学生
2013-2018 ニューヨーク大学 言語学科 Ph.D.
2018-2020 早稲田大学 理工学術院 助教
2018-2025 理化学研究所 革新知能統合研究センター 客員研究員
2020-2024 東京大学 大学院総合文化研究科 講師
2024-現在 東京大学 大学院総合文化研究科 准教授

招待講演2
竹内 孝
京都大学大学院情報学研究科 情報学専攻 知能情報学コース・データ科学コース 講師

都市基盤モデルとしてのAIと社会の意思決定

竹内 孝教授

社会における人工知能(AI)の利活用が期待される現代において、人間とAIの信頼の構築やAIの信頼相当性の向上は重要な課題と言えます。近年、AI は言語や画像などのマルチモーダルデータの処理が可能となり、その性能が飛躍的に向上していますが、AIの予測精度には限界があり、その信頼相当性には課題が残ります。本講演では、私たちの住む都市や地域から得られる多様なデータを扱い、日々の意思決定に活用するAIである都市基盤モデルの研究、そして都市基盤モデルを用いた参加型のAIプラットフォームについて紹介します。

略歴:竹内 孝 TAKEUCHI Koh

2011年3月 早稲田大学大学院 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻 修士課程修了
2019年3月 京都大学大学院 情報学研究科 知能情報学専攻 博士後期課程修了、博士(情報学)
2011年4月-2020年1月 NTT、 コミュニケーション科学基礎研究所、研究員
2020年2月-2023年9月 京都大学大学院情報学研究科 知能情報学専攻、助教
2023年10月-現在 京都大学大学院情報学研究科 知能情報学専攻、講師

招待講演3
河原塚 健人
東京大学情報理工学系研究科附属情報理工学教育研究センター 講師

基盤モデルとロボティクスの融合

河原塚健人教授

LLM・VLM に代表される基盤モデルは、言語や画像、音声、深度などの多様な入出力を扱うことが可能でありすでにロボットの認識・動作計画・制御などの様々な領域に応用が広がっている。本講演ではまず、実ロボットへの適用という観点から多様な入出力を持つ基盤モデルを分類し、その特徴を整理する。次に、ロボットの認識・動作計画・制御のそれぞれについてどのような形で基盤モデルを適用することができるのか、世界中の研究例、そして我々の事例を紹介する。加えてロボットの行動まで同時に扱うことが可能な、ロボット基盤モデルについても触れたい。

略歴:河原塚 健人 KAWAHARAZUKA Kento

2017年3月 東京大学工学部卒
2019年3月 東京大学大学院情報科学研究科修士課程修了
2022年3月 東京大学大学院情報科学研究科博士課程修了
2022年4月~ 東京大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻 特任助教
2025年2月~ 東京大学情報理工学系研究科附属情報理工学教育研究センター 講師

研究紹介1
大林 武
東北大学大学院情報科学研究科 教授

地球環境変化に応答する
沿岸生態系の理解に向けた長期メタゲノム解析

大林 武教授

プランクトンは海洋生態系の基盤を担い、物質循環や水産資源を支える重要な存在です。近年の地球温暖化や海洋環境の変動は、養殖産業を含む沿岸生態系に甚大な影響を及ぼしており、その長期的な変化を捉えるモニタリングと予測が求められています。我々は、未知種を多く含む海洋プランクトン群集を対象に、メタゲノム・エピゲノム情報の取得、画像ベースの形態解析、物理環境データを統合し、海水中の生物情報を網羅的に解析するプラットフォーム「PlanDyO」の構築を進めています。本講演では、三陸沿岸での定点観測から得られたデータをもとに、プランクトンの量と状態のダイナミクスの初期成果を紹介し、将来的な気候変動にともなう沿岸生態系の変化を予測する展望について議論します。

略歴:大林 武 OBAYASHI Takeshi

東北大学大学院情報科学研究科・情報生物学分野の教授。専門はバイオインフォマティクスおよびゲノム生物学。特にモデル生物における遺伝子ネットワークのデータベース開発に長年取り組んできた。近年は、遺伝学・生態学・言語学など多様な分野を横断し、データ解析の観点からそれらを統合する研究にも注力している。

研究紹介2
吉仲 亮
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

巨大アルファベット上の文脈自由言語の学習理論

吉仲 亮教授

近年、自然言語やプログラミング言語、あるいはDNA配列といった複雑な構造を持つ文字列の解析の必要性から、データから文脈自由言語を効率的に学習するための理論的枠組みが構築されてきた。しかし、従来の理論は比較的小さな文字集合上の言語を想定しており、プログラムの実行履歴など、無限に近い文字集合上の列を扱うことができなかった。本講演では、従来の有限アルファベット仮定を超え、実数など無限に近い記号集合を扱う文脈自由言語を対象とした学習理論に関する最近の成果を紹介する。

略歴:吉仲 亮 YOSHINAKA Ryo

2006年東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(博士(学際情報学))。2006年フランスINRIA-Lorraine博士研究員。2007年北海道大学大学院情報科学研究科 グローバルCOE 博士研究員。2010年科学技術振興機構 ERATO湊離散構造処理系プロジェクト 研究員。2011年京都大学大学院情報学研究科助教。2016年より現職。計算論的学習理論、文字列学等に従事。

研究紹介3
ウィッデヤスーリヤ ハシタ ムトゥマラ
東北大学大学院情報科学研究科 准教授

AIおよびビッグデータ応用のための
省電力FPGAカスタムスーパーコンピューティング

ハシタ教授

AIおよびデータサイエンスの応用は、膨大な計算能力を必要とするため、高いエネルギー消費が発生する。一方、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)アクセラレータ設計は、特定のアプリケーションに特化した専用ハードウェアの実現を可能にする。さらに、FPGAには高速ネットワークポートが搭載されており、複数FPGAを光ファイバーで接続することで、大規模なカスタムスーパーコンピュータを設計できる。FPGAを用いて処理に特化した最適なハードウェアを設計することにより、電力効率の向上が可能になり、特にビッグデータ応用やAI処理の性能向上において重要である。

略歴:ウィッデヤスーリヤ ハシタ ムトゥマラ

ウィッデヤスーリヤ ハシタ ムトゥマラは、2006年に東北大学(日本)より情報工学学士(B.E.)、2008年に情報科学修士(M.S.)、2010年に情報科学博士(Ph.D.)の学位を取得した。現在は、東北大学大学院情報科学研究科の准教授を務めており、リコンフィギュラブル・コンピューティング、高性能コンピューティング、プロセッサアーキテクチャ、およびVLSIの高位設計手法などは分野で研究を行っている。

研究紹介4
Ranulfo Bezerra
東北大学 タフ・サイバーフィジカルAI研究センター 特任助教

Transformable Production in Garment Manufacturing:
Scheduling, Layout SLAM and Intuitive Management
through VR System

Ranulfo教授

This presentation introduces a transformable garment production system using mobile robots to transport clothing parts and enable highly personalized and sustainable manufacturing. To manage flexible layouts and varied workflows, we propose Layout SLAM for localizing robots, workers, and workstations dynamically. We also present a VR-based management system integrated with a digital twin. This allows factory managers to intuitively grasp and intervene in the production process by visualizing real-time status, task schedules, and even haptic feedback data.

略歴:Ranulfo Bezerra

Ranulfo Bezerra received his Ph.D. in Information Sciences from Tohoku University in 2021. He also earned his M.Sc. and B.Sc. in Computer Science from the Federal University of Piaui, Brazil. He currently serves as a Special Appointed Assistant Professor at the Tough Cyberphysical AI Research Center (TCPAI). His research interests include intelligent robotic systems, robotic perception, autonomous robotics, and their practical applications. He is a member of RSJ and IEEE.

F-REIプロジェクト成果報告
田所 諭
東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター 特任教授
東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター 元センター長

困難環境の課題を解決する
「空間エージェント網」の研究教育

田所 諭特任教授

本研究は「空間エージェント網(Spatial Agents Web)」の概念を提唱する。ヘテロジニアスな多数のフィジカルエージェント、大規模AIエージェント、ヒューマンエージェント等が協力し、物理的および情報的な困難性を解消することによって、困難空間に隠された情報を検索し、困難空間内で必要な救助等の災害対応活動を可能にする。
ここで取り組む対象課題は、被災した建物やインフラ、プラント等の産業設備、廃炉、除染等において、災害への対応(救助)などにおける困難を克服することである。本研究が提案する「空間エージェント網」によって、困難で実施不可能な作業を可能にし、リスクを低下させて安全性を高め、効率化・迅速化・省力化に寄与することを目指す。
具体的には、移動のフィジカルな困難を解決することを目的とした「エージェントの狭隘空間極限作業」、センシング・作業の自律知能の困難を緩和することを目的とした「サイバーフィジカルエージェントの遠隔自律知能」、通信と信頼性の困難の解決を目指す「エージェント間コミュニケーション」、人間との共同作業の困難を解決する「ヒューマンエージェントとの共同のための知覚チャネル」の4つのテーマの研究教育に取り組む。それによって、困難環境の理解や作業を可能にする。その成果を元に、競争力強化、技術波及、標準化、国際協力、人材育成、理解増進等の活動を進めることにより、福島復興に寄与する。

略歴:田所 諭 TADOKORO Satoshi

1984年、東京大学工学系大学院修士課程修了。1993年、神戸大学助教授、2002年〜、国際レスキューシステム研究機構会長。2005年〜、東北大学教授、2014年、同副研究科長、2019〜2024年、同タフ・サイバーフィジカルAI研究センター長、2025年〜、同特任教授。2014〜18年、内閣府ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジプログラムマネージャー。2016〜2017年、国際学会IEEE Robotics and Automation Society President。IEEE RAS George Saridis Leadership Award in Robotics and Automation、文科大臣表彰科学技術賞他受賞。レスキューロボットの研究に従事。博士(工学)。IEEE Fellow。